気づくといつも黒の服をまとっている私。洋服のほとんどが黒ばっかり。理由はひとつ、墨が付いても大丈夫だということ(笑)。毎日筆を執り書いているのでいつの間にかそうなっていました。
黒はとても奥深い色だと私は思います。墨の黒は黒一色でしょ?とよく言われますが、いえいえ!黒には沢山の色があります。硯で墨を磨る固形の墨では青みがかった青墨・茶がかった茶墨。墨汁では紫紺系の黒、純墨などさまざま。また、現在私は大筆で書くため、墨を沢山使うのでオリジナルの墨を作り使ったりしていますが、黒の濃淡がとても面白く出るのです。
私は幼い頃から筆を執り、黒い墨で真っ白の紙に文字を書いてきました。黒と白の対極する二色を使って表現をする書はシンプル且つ究極の美だと思います。文字を書いた黒の部分と書かなかった余白の美。そのバランスが絶妙な時よい作品は生まれるようです。心がけているのは文字を書く黒の部分よりも余白の白の部分に気を配って書くということ。ついつい頑張りすぎて真っ黒にしてしまうのですが、そうすると見る人は苦しいですよね。(実は洋服も全身真っ黒にしてしまい苦笑されたことも…笑)
最近、やっとカラボレーションの鳥沢さんにカラー診断をしていただいて、予想外の私のカラーを発見!うれしくてポイントに色を入れるようにしています。先日、ある国際会議場で大筆を使って一文字「愛」という文字を書くデモンストレーションをしたのですが、衣装にうさぶろうさんというタイで服飾デザイナーをしている方の作品から自分カラーのものを選びました。その衣装を着たところなんだかみるみるパワーが出てきて、大勢の方が見ている前でもとても落ち着いて集中して書くことができました。服や色の力って不思議ですね。
 
さて、墨は薄くするほど何ともいえない柔らかな表情を出します。少しずつ水を加えると墨が薄まり柔らかで透明感のある墨色になるのです。よい固形墨は薄くするほど美しさがわかります。また、不思議なことに墨の色は薄める水の水質・お天気など、そのときの状況によっても変化します。まるで人の感情の移り変わりのようにとても繊細です。
私はお天気の日を“書道日和”と呼んでいます!お天気がよい日は空気も乾燥していて、スッと紙が墨をすってくれるので墨の色がとてもきれいに出るのですよ。現在私は山が見える高台に住んでいますが、「山の書室」のアトリエからの眺めがすばらしく、お天気のいい日などはゆっくりと筆を執りながら贅沢だな〜と一人満足しています(笑)。
2008年夏、私はドイツのハンブルク美術工藝博物館で行われた私の書の師の書道講座とワークショップのアシスタントとして出かけてきました。その際、筆を持ち歩き現地でいくつかの作品を書いてきたのですが、ヨーロッパの風土や異国の空気を感じながら書いた作品は、日本で書く作品とはまた違う柔らかな表情が出てびっくりしました。
私は普段大きな作品を中心に制作していて、大きな筆を使って墨もたっぷり含ませて書いているので墨が濃くなり力強い作品ができます。しかし、旅した地では、大きな筆などを持って行けなかったということもあり、古い小さな硯と固形墨を用いて現地の水で丁寧に磨って書きました。豊かなエルベ川の流れ、どこまでも高い空、どっしりとした建造物、のびのびとした空間、ゆったりとした時間がそこでは流れていました。そのとき大空に白い鳥が風の流れにのって優雅に飛んでいてあまりの美しさに思わず「鳥」と書きました。
鳥は神様の使いと言われていますが、空から神聖な使いが降りてきたように感じて、とても感動しました。そのとき不思議ですが鳥の羽毛のようなフワフワとした墨の滲みが生まれたのです。豊かな自然、大らかなヨーロッパの人々と触れ合う中で書いた作品はとても柔らかな青みがかったきれいな墨色となりました。書くときの環境・水や空気、そしてそのときの心の様子が墨色にはとても素直に表れるようです。
そういえば不祝儀の際使用する薄墨は、悲しくて涙がこぼれ落ちて墨が滲んでしまったという心を表現しているそうです。日本文化のそのような細やかな心遣いもまた素敵ですよね。
私はいつも文字に願いや祈りを込めて書いています。書をみてくださった方が元気を感じてくださったり、心が安らかになったり、幸せな気持ちになったり、文字に込めた念いが伝わりましたらとても嬉しく思います。書を通じて表現できることを本当に幸せに感じます。心をこめてこれからも書き続けていきたいと思っています。
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